2006秋季大会展望
〜背水からの戦いへ〜 2006/09/07





 8月21日、早実が初めて夏の選手権を制し、深紅の優勝旗を西東京に 持ち帰ってきました。決勝再試合という、歴史的にも、記憶的にも名を 残す雌雄を決した戦いを、戦後初の夏3連覇を目指す駒大苫小牧と演じ、 そして見事に栄冠を勝ち取りました。改めて早実には敬意を表するとともに、 同じ早稲田の仲間として最大限の賛辞を贈りたいと思います。一方、期待 された学院の夏は西東京2回戦であっけなく敗れました。ひいき目と言われ ようとも、戦力的には早実に決して負けず劣らず、4回戦での早早対決を 真剣に心待ちしていたところでした。

 かたや高校日本一、かたや地方予選2回戦、一体この差はどこにあるの だろうか、この夏ずっと悩み続けたテーマでした。早実の甲子園での試合を 見るにつけ、悩みは膨らみました。確かに、世を席巻しているエース斎藤投手の ずば抜けた制球力、打者との駆け引きなどマウンド捌きは、学院投手陣とは 比較にならなかったかもしれません。しかしそれ以外の面、つまり攻撃面や 守備面ではここまでの差がつくとはとても感じられません。今でも学院の 二遊間などは早実の二遊間とも十分互角に渡り合えると思っています。

 では決定的な違いは何なのか、それは早実の和泉監督や斎藤投手らの言葉に 秘められていました。「一戦一戦、選手達は甲子園で成長した」(和泉監督)、 「王さんや荒木さんの偉大な先輩でも成し遂げられなかったことをぜひやろうと 思った」「僕らが勝つことが(入院中の)王さんにとって最高の薬になると思い ます」(以上、斎藤投手)。和泉監督の言葉は甲子園で優勝した監督がよく口に することです。残念ながら甲子園出場経験のない我々には頭では理解出来ても 実感出来たことはありません。ただ斎藤投手の言葉を聞けば、チームが一体どう いった思いで西東京予選から戦っていたかは分かります。裏返せば、早実ナイン、 いや早実野球部全体が負けられない戦いなんだという気概を持ち、その結果彼らは 一つ勝つごとに自信を漲らせていったのでしょう。それを評して和泉監督は ”成長した”とお話しされたのだと思います。斎藤投手以外スーパースターが いなかった早実が勝てたのも、選手一人一人が同じ気持ち気概で戦い抜いたから こそ最高のチームワークとなり、最高のパフォーマンスを発揮するに至った要因 だと言えます。

 ところで、これって伝統でしょうか?「伝統の力」が試合を左右した、こうした ことも度々耳にすることですが、決してそんなことはないはずです。もちろん 王さんや荒木さんら過去に素晴らしい選手を輩出した早実ではありますが、いつの 時代もプレーするのは同じ16〜18歳の高校生なのです。学院野球部員と何ら 変わりありません。実際、実力は端から見ても遜色ないほど接近してきています。 結局のところ、伝統伝統と言うのは選手の自信であって、大会に臨む意識、もっと 言うなれば練習での目的意識にあるのだと思います。「甲子園に行かねばならない」 と考える伝統校、名門校に対し、「甲子園に行きたい」「甲子園に行けると嬉しい」 と、あわよくば的な発想をする常敗校(勝手に命名しました)。この違いが 1年生の入部時から3年生の夏にかけて成長に著しい差となって現れ、土壇場での 底力につながるか不発に終わるかの分かれ目になると、今更ながら早実の優勝を 見て感じた次第です。

 学院は不幸にも、学校組織として野球部を始め運動部を積極的に支援する 体制は整っていません。非協力的な学校と言っても過言ではないでしょう。 早実が全校挙げて必死に応援する様を見て何かを感じ取ってくれたらありがたい ですが、期待は出来ません。去年の慶応高校が選抜出場したときですら変化が なかったわけですから。しかし今回の早実優勝は、ある意味慶応高校の甲子園出場 とは比べものにならない程、学院にとっては大変なことなのです。すでに雑誌等 でも報じられていますが、来年の入試説明会では早実の人気が圧倒的に高まり、 早実が用意したパンフレットがあっという間になくなったということです。もち ろん、早稲田で野球を志す中学生はほとんどが早実を目指すことでしょう。附属校 である我が学院の存在意義はどこに行ってしまうのか、こうしたことを学院が 真剣に問題意識として捉えているとは思えません。同じ西東京で切磋琢磨すること こそオール早稲田の観点で望ましいことであり、学院が一方的に劣勢になり沈んで いくことは好ましいことではありません。

 こうして迎える秋の大会。学院は松本監督から松橋監督にバトンタッチされ ました。有能な選手が揃っていた3年生が抜けた穴を埋めるのはそう容易いこと ではないでしょうが、8月は仙台遠征、夏合宿と、新チームは貴重な経験を重ねて きました。練習試合も数多くこなし、松橋監督曰く、「ようやく戦えるチームに なってきた」。特に投手陣の整備が進んだことが明るい材料で、初戦の芝浦工大に 対しても3年前ブロック決勝で苦杯を喫した借りを返すいいチャンスが巡ってきた と言えます。白村新主将は、「投手を中心にチームの力は全体に上がってきて ます。強豪校が多い厳しいブロックですが、しっかり戦います」と、その表情 からは3年生抜きでも立派にやっていけるという、独り立ちした自信が見て取れ ました。

 これまで述べてきた通り、早実の優勝で学院を取り巻く状況は非常に厳しく なっています。学院が埋没してしまわないためにも、今大会の成績は極めて重要な ものとなります。選手達もこのことは十分に認識しているはずです。ただでさえ 緊張する新チーム初の公式戦で彼らにはさらなる重圧を担わせてしまいますが、 学院野球部には学院野球部の歴史と伝統があります。早稲田の冠を早実だけに 持って行かれるわけにはいきません。こういう状況で今回入ったブロック(詳細は 当HPに掲載)は学院に課せられた試練とも言えるでしょう。相手に何ら不足は ありませんし、最早相手を気にする余裕など学院にはありません。ただ勝つのみ、 どんな形であれ勝って結果を残すことが、現状を変える唯一の方策なのです。 そして学校組織の支援もない、まさにバット一本で敵に挑まなければならない 苦しい環境ですが、今こそ我々OB会がバックアップして、後輩を奮い立たせて あげるべき時です。ただし勝ち抜くには、選手一人一人が「勝ちたい」ではなく 「勝つんだ」という気概を持ち続けること、これはどんな状況に置いても指導者の 想い次第で植え付けられます。やれるところから改革を積み上げ、現場だけでなく OB会も一緒になって苦しんで戦って、そして栄冠を掴み取ろうではありませんか。

 「都の西北」を甲子園で歌うことの出来る学校として、いつまでもあと一歩で 甘んじるのでなく本気で頂点を目指さなければならない、早実が優勝した瞬間から 学院は一変したのです。ぬるま湯体制だった学院の尻に火を付けてくれた、同じ 仲間の優勝は嬉しいことと同時に、真剣に考えさせられる機会となりました。 今回の展望はいつもと全く違う調子となりましたが、今こそOB全員が母校を 見つめ直さなければならない転換点であることを気付いて頂ければと思います。 応援と合わせ、ぜひよろしくお願いします。


2006.09.07
(文責:広崎正隆 S63卒)