特別寄稿
竹内仁史君に捧げる「感謝状」 2006/11/05





 10月30日の早慶戦3回戦をもちまして、東京六大学野球の平成18年度 秋季リーグ戦が終了しました。残すは明治神宮野球大会のみとなります が、学院野球部出身の竹内仁史選手も4年間の大学野球部生活にまもな くピリオドを打ちます。学院野球部全0B並びに現役部員に夢や希望を 与えてくれた彼の活躍、功績に敬意を表し、この4年間を見てきた者と して拙文ではありますがここに感謝の言葉を贈ります。

 竹内仁史君、4年間本当にお疲れさま。君の活躍にどれほどの学院 野球部OBや現役部員、はたまた関係者が励まされたことか。現に君の後 を追って入部した後輩が2年生に3人、1年生に1人、さらに来春の学院 卒業生も大勢が神宮でのプレーを夢見て待機している。大学と学院と の関係が途絶えていた中で君がつないでくれた功績は計り知れない。 心の底から御礼を言うよ、ありがとう。

 最後の早慶戦、君の勇姿をしっかり目に焼き付けようと、3試合とも 観戦した。1回戦は残念ながら出番がなかったが、劇的な延長サヨナラ 勝ちをした2回戦、君はいつもと同じく大事な終盤守備固めで出場し、 いくつものショートゴロをいとも簡単に捌いていたね。同期のエース 宮本賢投手も、君が後ろで守っていると本当に安心して投げているよ うに見える。君の実力を見い出し、伸ばしてくれた野村徹前監督が去年 春の早慶戦後に私に語ってくれた言葉がある。「竹内を出しておけば 間違いない。宮本が先発の時は最初から竹内を使えばいいんだよ」。 ここまで君のことを評価してくれた野村さんには何と申し上げて良い のか、正直言葉がないほど感謝しなければならない。しかしその野村 さんの期待に応え、チームメートからも信頼され目標にまでされる 選手になったのは、何と言っても君自身が誰よりも努力した賜物なんだ。 俺はこんなに素晴らしい後輩を持てて幸せだよ。

 2回戦は勝つには勝ったが、苦しかったなぁ。1-2で迎えた9回表、 慶応最後の打者を君が軽快にアウトにしたとき、もし裏の攻撃がゼロ だったらこれが竹内最後のプレーになると思ってついつい目が潤んで しまった。最近涙腺が緩くてしょうがないんだ・・・でも、その後に 起死回生の同点ホームランが出るなんて、勝利の女神は諦めないチー ムに微笑んでくれるものだと実感したし、これでまた竹内のプレーが 見られると、心の中で手を合わせたよ。

 延長に突入して10回裏、1番バッターに入っていた君に打席が回って きた。それも一死1、2塁という絶好のサヨナラのチャンスで!ネット 裏から「たけうち〜、お前が決めてこ〜い」って叫んだ俺の声は届いた かな?結果は絶妙な送りバントだったが、その直前應武篤良監督とひそ ひそ話していたとき、「打ちたいです」って直訴したんだってな!早稲 田スポーツ見て知ったよ。守備では君の右に出る者はいなかったが、 バッティングは正直なところ非力だった。でもその君が「打ちたい」 と志願した心意気、本当に頼もしく感じたぞ。(参照: 早稲田スポーツ

 4年生にとって秋のリーグ戦は誰もが思い入れあるもんだ。2回戦で サヨナラホームランを放った佐伯謙司郎選手にも下積みのドラマがある し、3回戦を戦い抜いて首位打者を獲得した慶応の岡崎祥昊選手も神が かった活躍ぶりだった。4年間不思議と一度も早慶戦で勝ったことが ない大谷智久投手の最後の力投、勝負強さを発揮する左の切り札大西 玲治選手、さらには代走専門の萬谷浩之選手、みんながそれぞれ最高 のパフォーマンスを見せてくれて、すべての4年生にありがとうと言い たい。中でも、3回戦の9回表、1点を追いかける早稲田の最後の攻撃の 際、必ず裏があると信じてブルペンで投球練習をする宮本投手、ベン チ前でキャッチボールをして出番を待つ竹内、君らの姿は痛々しいま でに俺の脳裏に焼き付いたよ。今でも、何度思い返しても目頭が熱く なってしまう。そりゃそうだよな、前日は奇跡を起こしてくれたんだし、 最後まで試合を諦めずに、いざ出たときに最高のプレーをするため 準備は必要だよな。二死ツーストライクになっても、その姿勢は変わ らず君らはキャッチボールを続けていた。本当にお疲れさんだった ・・・

 思えば、竹内が大学でも野球を続けると言った高校3年生のとき、 聞いた俺は正直「大丈夫だろうか」と思ったんだ。今から考えると、 余りにも君のことを見くびっていたことを恥じねばならないが、当 時は、華奢でどことなくひ弱さを感じていたから、「上でやるという 意気込みは大したものだ。仮に続かなくてもやる気は買ってやらな きゃな」くらいにしか思っていなかった。しかし1年後、1期下の後 輩が学院を卒業する前の卒業祝賀会に、君が練習を終えて駆けつけ てくれたときのこと覚えてるか?そのとき君は、大学で野球をやろう と考えていた木村太郎、馬場裕常を前にしてこう言ったんだ。 「学部での野球は学院でやってきた野球とは全くレベルが違う。 覚悟して入ってきて欲しい」とな。その喋り方、目付き、顔付き、 1年間でここまで人間は成長するのかと思うくらい、君は変わって いたし、輝いていた。竹内って、内に秘める芯はすごく強い奴なんだ、 俺が思い知らされた瞬間だった。

 もっとも、君にとっても2期先輩に浜田勝大選手が学院OBとしていて くれたことは心強かったと思う。なかなか浜田には会う機会がないが、 俺は彼にも4年間立派に全うして頑張ったことに直接賛辞を送りたいし、 思い出話なんかも一献傾けながら聞いてみたい。どうだ、今度3人で 一杯やらないか!

 4年間、長いようであっという間だったんじゃないかな。何せ2年生の 春から君はベンチに入り、3年生の春には27年ぶりに勝ち点4同士で迎え た早慶戦を制し、その優勝の瞬間はサードを守っていたわけだし、最後 のシーズンも優勝と、実に8回のリーグ戦で半分の4回も優勝を味わった のだから、こんな幸せな野球人生もなかろう。素晴らしい先輩や同期ら に恵まれ、数々の勲章に授かれたことは羨ましい限りだし、何と言って も努力が報われたことはこれ以上ない喜びだよな。早稲田の背番号8、 これはまさしく守備のスペシャリストのナンバーであり、早稲田大学 硬式野球部の歴史にもしっかりと君の名が刻まれることになるだろう。 改めて、学院OBを代表して君の功績をここに讃えたい。

 明治神宮野球大会まではまだ現役だが、その後は伝道師となって君の 経験を学院野球部にぜひとも還元して欲しい。憧れの先輩であり身近な 目標の君を見るだけで、君がほんのちょっとプレーを見せるだけで、 後輩が受ける刺激はすさまじいものがあるはず。最終的な夢である学院 の甲子園出場に向けて、最大限の力を貸してくれ。そして、いざ甲子園 の切符を手に入れたら2人して仕事もほったらかして応援に行こうぜ!

 最後に、これからも野球で培った精神を忘れずに、竹内らしい立派な 人生を歩んでくれ。かけがえのない経験、そして寝食ともにした戦友、 こうした貴重な財産を大切にしながら、新たな飛躍に期待をし、注目して いるよ!本当に本当にお疲れさまでした。そして、夢とたくさんの感動を ありがとう。



2006.11.01寄稿
(寄稿者:広崎正隆 S63卒)