2008夏総括 〜夢は夢でしかないのか〜 2008/08/25




 お盆が明けた途端、酷暑とも言えた暑さが和らぎ、秋の気配を感じる 今日この頃となりました。皆様、お変わりございませんか?

 「北京オリンピックでは金メダルしかいらない」と豪語して北京に乗 り込んだ、オールプロ集団の星野ジャパンが、上位3チームには予選から 一度も勝てずに4位と惨敗しました。ストライクゾーンが違った、ケガ人 が多かった、チームの調整期間が短かった・・・負けた理由はいろいろ と挙げられますが、およそプロとは思えないお粗末な失策もあれば、パ ワーで劣る面を細かいつなぎ野球でカバーするという鉄則を忘れたかの ような攻撃の無策、さらには投手出身者だったはずの星野監督の信じら れない投手起用、見ていて???が次々と沸いてきたのは何も私だけで はないと思います。もっと言えば、チーム全体に筋が全く見えなかった、 つまりこのチームは何をやろうとしているのかが伝わってきませんでし た。短期決戦にもかかわらず、致命的な欠陥を抱えたまますべてが終わ ったといった印象です。アジアの盟主の座を韓国に明け渡すという屈辱 だけが残りました。

 ところで、このオリンピックのためにこの夏の甲子園は期間を前倒し し、今月18日に決勝戦が行われました。結果はご存知の通り大阪桐蔭が 常葉菊川に17-0と圧勝、2度目の全国制覇を果たしました。星野ジャパ ンが羨むほどの破壊力で、17得点は決勝での最多タイ記録です。大舞台 でとんでもない力を発揮した大阪桐蔭の選手達、まさに称賛に価する内 容でしたが、ちょうど決勝の1ヶ月前に高校野球生活に終止符を打った 学院の3年生も、同じ高校生なんです。彼らは、今大会あるいはこの決 勝戦をどのように見ていたのだろうか、ふとそんな疑問がよぎりました。

 今年は15年ぶりにシード校(第4シード)として西東京大会に出場した 学院。OB会や学校関係者ならずとも、期待に胸膨らんだ“夏”でした。 創部史上初、悲願である甲子園出場も夢ではない、朝日新聞が戦前の寸 評で学院を優勝候補の一つに取り上げていたことも気分高揚に拍車をか けました。初戦の大成戦を15-0の5回コールドで突破し、その夢はさら に現実に近づいた――野球雑誌にも全国クラス扱いを受けた鶴谷、大野 の投手陣2枚看板に加え、百戦錬磨の鉄壁守備陣、そして吉原主将を核 とする強力打線、戦力がこれほどまでに揃った代は近年でも珍しく、 次戦以降も順調に勝ち上がってくれるものと、きっと誰もが信じていた ことと思います。

 こうした中迎えた4回戦(学院にとっては2試合目)、相手は法政大高。 東京6大学野球の高校版とでも言いましょうか、お互い応援は神宮球場 そのものでした。“早法戦”は実は2日間に渡り行われ、初日(7月18日) は法政に0-1とリードされた苦しい展開で5回裏学院の攻撃中、降雨ノー ゲームとなりました。この試合、学院は1安打と完全に法政の主戦奈良 投手に抑え込まれなす術なしの状況だっただけに、松橋監督は「(ノー ゲームとなって)素直にうれしい。助かった」と喜ぶ一方、法政側は どしゃぶりの中ベンチ前で選手がキャッチボールのパフォーマンスを 見せ最後まで試合再開を強くアピールしていました。天は学院に味方せ り、奈良投手の攻略法も掴み翌日の再戦は学院打線が奮起してくれる、 応援のため足を運んで頂いた皆さんが感じたことではなかったでしょう か。

 翌19日、天気は打って変わり晴天で非常に暑い中での再試合が始まり ました。前日とは反対で先行の学院が、これも前日とは逆で初回に1点 先取、2日がかりでの絵に描いたような“土俵際うっちゃり勝ち”のシナ リオがちらついた瞬間でした。しかし、その初回の攻撃で奈良投手から 2本もヒットを打ち、先制後もなお一死1、2塁と攻め立てておきながら、 追加点どころか走者を先に進めることも出来なかったことでこの先嫌な 感じを受けたのも事実です。そして、残念なことにその予感が的中する こととなったのです。以降の試合経過は今さら省きますが、法政は1回 裏にすぐさま同点に追いついて“うっちゃり負け”の呪縛を自ら解き 放ち、その後は精神的にも有利な試合運びをしていたと言えます。 結局3-4の1点差負け、長く熱いはずだった“2008夏”は終わりました。

 なぜ勝てないのか、このテーマは毎年のことではありますが、今夏に 限っては正直真剣に悩み、苦しみました。答えが出ない・・・そう思 っていたところに、冒頭書きました星野ジャパンの戦いぶりがありま した。まさにこれだ、学院にも全く筋がないのです。1回から9回まで、 学院野球と言える柱が存在しないのでした。今大会も個々の選手の能 力に頼るだけ、点と点をいくつも結んで面にする力がないためチーム 全体の爆発力が生まれない、のです。言い換えれば、その場その場の 出会い頭で戦っているということです。強力打線ではあったものの相 手が好投手となれば1点1点の積み重ねが非常に重要で、それだけに先 制後の初回の一死1、2塁は確実に走者を2、3塁に進めとことんまで相 手を追い込む、最悪追加点を奪えなくてもボディーブローとなって終 盤の攻略につながる、あくまでも一例ですがすべてにおいて学院サイ ドにこうした戦略がありませんでした。

 筋、柱、これはとりもなおさず、そのチームが持っている勝ち方に つながります。学院の場合、超高校級のスラッガーがいるわけではな いのですから、少ないチャンスは是が非でもものにしなくてはなりま せん。しかしチャンスは待っていても簡単に来るものでもありません。 そのため、相手に1回から目には見えないプレッシャーをかけ続け、 投手が崩れる、あるいは守備に綻びが出るのを誘いながら、流れを呼 び込んでいくのです。いつも指摘する走塁についてもまさにこの話の 一環で、小さなリードでは相手投手に何らプレッシャーを与えること にはならず、次を狙う姿勢が相手の守備を乱れさせる要因ともなるわ けです。こうした野球はいきなり出来るものではなく、普段の練習、 普段の指導で言い続けなければ選手の身体は咄嗟に反応しません。練 習自体に目的意識がなければ出来ないのです。その観点で学院の練習 を振り返れば、ただ打つ、ただノックを受ける、ただ走る、漫然とし た野球しかやっていなかったことは事実です。厳しい言い方かもしれ ませんが首脳陣の手抜きと言っても過言ではありません。星野監督が 個々の選手の力量にのみ頼り、徹底したしつこいまでのつなぎ野球を しなかったこと、あるいは出来なかったことが大きな敗因であるよう に、学院にも同じことが言えます。

 試合で偶然はない。すべて必然である――ときに選手は信じられな いスーパープレーをするように見えますが、それは周囲がそう思うだ けで、その一瞬に最高のプレーをするために普段何百回、何千回と練 習をしているはずなのです。当然ながら、指導者、選手が目的意識を 共有した上で。本当に甲子園を目指すなら、その場しのぎの野球から は脱却し、試合を9回までのプロセスで考え、チーム作りを1年間のプ ロセスで行い、その一瞬一瞬に意味を持たせる努力が不可欠です。首 脳陣自らの自己改革を促したいところです。

 当HPの掲示板に、「夢を持つのは良いことですが、ベスト8に勝ち 上がったこともない学校がいきなり甲子園に行けるわけないです。 希望半分、夢半分。」「もう大会前に身内だけで盛り上がるのはやめ ましょう。現実は三回戦どまり。もっと謙虚な姿勢で大会に臨むべき なのでは?」といった厳しい書き込みが寄せられています。確かに、 世間一般からしてみれば実績がないチームの高望みで、もっと現実を 直視せよという指摘もその通りでしょう。しかし、それでもOBという のは毎回夢を追い続けるものですし、我々が後輩を信じなくて誰が彼 らを信じるでしょうか。これからも、まもなく始まる秋の大会も、学 院の勝利を信じ、甲子園出場を願い、あらゆるところでメッセージを 発信していきたいと思います。アメリカを破る快挙で奇跡的に(?!) 世界一となった日本女子ソフトボールの上野投手が優勝直後のインタ ビューでこんなことを言っていました。「最後は気持ちが強い人間が 勝つ」。何をやらねばならないか、常に考え、いつも筋の通った戦い 方をすることを前提に、最後の最後はやはり精神力なんだと、彼女の 言葉はずっしりと胸に響きました。我が学院野球部が必ずや日本中の 脚光を浴びる日が来ることを信じて、大変遅くなりましたがこの夏も 応援して頂きましたすべての皆様に感謝を申し上げるとともに、希望 を送り続けてくれた3年生に心の底から「ありがとう」の言葉をお返 ししたいと思います。君たちの無念さはきっと後輩が晴らしてくれる、 そしてその無念をぜひとも今後大学野球部で、神宮という舞台でエネ ルギーに代えて活躍して下さい。いつまでもいつまでも期待しています。


2008.08.25
(文責:広崎正隆 S63卒)