2010夏準決勝(vs早実)観戦記&総括(上)
〜"夢"が明確な"目標"に変わった夏〜 2010/07/28





 学院の2010年の暑い、熱い夏が終わりました。初戦(7月11日)から数えて 2週間、学院野球部史にその名を刻んだ選手達、さらには激戦を指揮した木田茂監督 (S50卒)始め首脳陣の皆さんに心から感謝すると同時に、猛暑にもかかわらず球場に 足を運び声援を送って下さったすべての皆様に、野球部に代わりまして篤く御礼申し上げ ます。本当にありがとうございました。早実が4年ぶりの甲子園出場を決めて西東京 大会は閉幕しましたが、今夏の学院の快進撃は関係者のみならずとも心に残る結果 だったと思います。早実には学院の想いも含めて思う存分晴れの舞台で大暴れしてきて ほしいと願います。ぜひとも頑張って下さい。

 しかしそれにしても、準決勝は歴史的な一日でした。学院にとっては56年ぶりの ベスト4、夏の大会では41年ぶりの早実との早早決戦、おまけに準決勝もう1試合も 日大鶴ヶ丘vs日大三高の日大勢同士と、話題には全く事欠きませんでした。マスコミ 各社もこぞって取材していましたし、スタンドは朝早くから関係者や高校野球ファンで 埋め尽くされ、観衆は何と1万5000人。準決勝としては異例中の異例で外野席も 開放されました!

 こうした中、前の準々決勝東亜学園戦を最高の形で完封した千葉投手は試合前、「睡眠は ちゃんと取れました。メシも食ってますし、緊張はそんなにないです。疲れもありません」 と、普段と変わりなく入念なストレッチをこなしていました。そうは言ってもこれまでの 5試合すべてに先発し、初戦以外の4試合は9回まで投げ切っています。疲れがない はずはないのですが、そこが歴史を塗り替えた立役者としての自信なのか、世紀の一戦を 前に目がとても輝いているのが大変印象的でした。ただ千葉投手に限らず、よくよく 見渡すとこんな大一番を控えて誰も緊張している素振りはありませんでした。たとえ 相手が早実であろうが、東亜学園であろうが、きっと日大三高でも日大鶴ヶ丘でもどこで あっても、今の学院の選手達は全く物怖じすることなどないんですね。時代が明らかに 変わったことを痛感しましたし、そんな後輩がとても頼もしく思えてなりません!

 と言いながら、学院をここまで押し上げた一番の原動力である木田監督は、「早実に 勝てる確立は2%くらいだな」と、のっけからこちらの気勢をそぐようなことをボソッと 呟きました。しかし、これは木田監督特有のはぐらかし、何年も付き合ってきた筆者は 簡単に見抜きます。「で、本音のところはどうなんですか?」「う〜ん、まあ一にも二にも 千葉次第。千葉がボールを低めに集めて、それを早実打線がガンガン振り回してきて くれたらありがたいけど、センター返しとかされたらきつい」。確かにこれまで対戦して きた相手は、球速がせいぜい120キロ台半ばの千葉投手に対して強振してくる傾向が 強く、そこを逆手に取ってスライダーでタイミングを外し打ち取るという術中にはまって くれるケースがほとんどでした。早実もそうであってほしい、これは何も木田監督一人 だけではなく、学院野球部OB全員の願いだったと言えます。

 では、学院が勝つチャンスは本当に2%なんていうわずかなものだったのでしょうか? 木田監督に詰め寄ると、「勝つとしたら2−1とか3−2しかないだろうね。やっぱり 得意の1点差ゲームに持ち込むしかない。ただ序盤の3回までをうまく抑えられたら 面白いね。早実はあれだけ全国から優秀な選手を集めているんだから、野球で学院に 負けたら大変なことになるよ。向こうはそういう意味ではすごいプレッシャーじゃない。 だけどうちは何も失うものがない分気楽だよ」。序盤を千葉投手がきっちり抑えることが 出来れば、早実も焦り始めて学院ペースに持ち込める、木田監督が描く勝利のシナリオは まさにこのパターンであり、精神的優位さを強調する口ぶりから言っても、やはり2% なんて心にも思っておらず、一部メディアに漏らした通り「早実を食ってやる」という 意識がひしひしと伝わってきました。指揮官たる者、当たり前のことですが…ちなみに 警戒する選手は「3番の安田選手。2年生だけど非常にセンスあってどんな球にも対応 する」と、データもしっかり頭に入れて試合に臨む姿も見せてくれました。

 しかし、第一試合が終盤、日大鶴ヶ丘が逆転、日大三高が追い付くというシーソー ゲームとなり、ついには延長戦に突入、その後は一転膠着状態に陥り、一体第二試合は いつになったら始まるのか、両校関係者ともに身に堪える暑さを必死に耐えながら やきもきしていたことと思います。そんな中、岸主将からこんな話を聞きました。 延長に入る随分前に早実とのメンバー交換は終えていたのですが、その際相手の土屋 主将と握手を交わしたとき、「(向こうは)全く笑顔も見せず、どちらかと言うと殺気 立ってました」。早実が如何に学院への対抗心を滲ませ、WASEDA対決となった ことで緊張感漲っているのか、これぞ木田監督が言っていた「野球で学院に負けられない という、早実が感じるプレッシャー」の現れではないでしょうか。ハイレベルの戦いに なればなるほど試合前から心理戦も激しいものですが、こうした一つ一つのエピソードは 間違いなく学院にとって経験したことがない貴重なものです。「でも(土屋主将の)腕は めちゃくちゃ太かったっす!」、相手の殺気を感じる一方で、岸主将は無邪気にこんな ことも話していましたが、これも木田監督の言う「失うものがない学院の気楽さ」だった のかもしれません。いずれにしても、長く待たされている間の学院と早実との雰囲気の 違いは察しが付きます。果たしてどちらがいいのか、そういったことから今後見直す ことが出来るという点においても、今大会は極めて有意義なものだったと言えます。

 当初の開始予定は12時半、それが結局午後3時へと大幅にずれ込んでしまいました。 延長14回で第一シードの日大鶴ヶ丘がセンバツ準優勝校の日大三高を破り決勝進出を 決めましたが、日大鶴ヶ丘と同じ一塁側の学院にとってスタンドの入れ替えはさながら 甲子園かと思うほど時間がかかりました。あっ、すみません。準決勝進出した4チームの 中で唯一甲子園経験がない我々としては甲子園との比較など出来ませんが、どのチームも 応援がしっかりしていますのでおそらく甲子園のアルプススタンドもこんな感じなの だろうなと想像してしまいました!

 入れ替えが済むやいなや、"紺碧の空"や"コンバット・マーチ"といった定番の応援 歌が鳴り響くのですが、一塁側(学院)三塁側(早実)両サイドから同じ曲が聞こえて くると、やはり普段とは勝手が違います。これぞ"早早決戦"という高揚感が改めて 沸いてきましたが、グランドでアップをしている両校の選手達もきっと違和感を覚えて いたに違いありません。それでも両校が、決定的に違う"校歌"をそれぞれ熱唱して からは、ボルテージは弥が上にも上がりまくり、興奮が神宮球場をぐるっと包み込み ました!

 暑くて堪らないにもかかわらず、こんな状態で最後まで応援席は持つのか!?そんな 心配をよそについに両チームの選手達が審判団とともに一斉にベンチを飛び出しホーム ベース前に整列しました!いよいよ、世間が注目する一戦の火蓋が切って落とされるわけ ですが、この試合が学院にとって歴史の1ページというだけでなく、"甲子園"という創部 以来の"夢"が現実的な、かつ明確な"目標"へと変わる大きな意味を持つ転換期となる こと、まだ誰もこの時点で心底確信を持ててはいなかったと思います。「お願いします」、 一見同じユニフォーム同士の両者が挨拶、球場全体が今から始まる筋書きのないドラマに 胸踊り拍手する中、じゃんけんに勝って後攻めを取った学院ナインがさっと初回の守りに 散りました。さあ、試合開始です!"未だ見ぬ頂き"に向かって、学院の挑戦がとうとう 始まります。・・・(次号へ続く)



2010.07.28
(文責:広崎正隆 S63卒)